使命・将来像・中期計画
メディアセンターの使命
メディアセンターは、慶應義塾の創始者福澤諭吉の建学の精神のもと、次の使命を担って国内外の学術活動ならびに社会に貢献する。
- 学術情報を収集・組織・保存・提供することにより、慶應義塾大学における学習・教育・研究・医療活動を支援すること。
- 慶應義塾大学における学術活動の成果の発信を支援すること。
- 学術・文化の担い手として学術情報を後世に伝えること。
メディアセンターの将来像
- 世界中の価値ある資料を簡便に利用できる環境を提供する。
- 学習活動や研究活動の変化に対応できる基盤環境を提供する。
- 学生の主体的・自律的学習を支援する。
- 急速に多様化する研究活動を支援する。
メディアセンター中期計画2016-2020
メディアセンターは、ここに掲げた将来像の実現を目指し、適正な保存スペース、利用施設、 および財源の確保を常に意識しながら、以下の 3つの領域の指針に従って事業計画を具体化し 実行する。個々の計画の実施をより堅固なものにするためには、適切な図書館情報システムの選択が重要な課題となる。同時に施策の効果を最大限に発揮するために、絶えざる人材育成、適切な人員配置、無駄の無い組織づくり、塾内外との業務連携等に配慮し、効率的な運用体制 の維持に注力しなければならない。そして義塾の国際展開をも視野に入れ、世界をリードする 学塾に相応しい図書館を目指す。
▶領域1 蔵書
- 学術情報流通の変化、利用動向を常に把握し、適切な媒体での資料収集に加え、既存蔵書 を評価し最適な蔵書構成、および資料配置を目指す。
- 研究および医療活動を支える環境の維持、発展を確保できるよう、電子資源契約を学内の合意を取りながら慎重に進める。
- 分担収集や共同保存について、塾内のみならず塾外機関との連携をも目指す。
- 慶應義塾が所蔵する特色あるコレクションを発展、充実させ、公開を進める。
- 慶應義塾の学術成果の機関リポジトリへの搭載を拡充し、情報発信を強化する。
▶領域2 教育支援
- 自ら考え、課題を解決する力を養う学習や教育を支援するための資料を収集、保存し、最適な利用環境を提供する。
- 多種多様な資料から効率的かつ効果的に情報を検索し、適切に活用できる知識や技術を獲得できるよう人的支援を強化する。
- 留学生、生涯学習者、障がいのある学生など学習者の多様性に配慮し、変化する教育内容や教育方法にも対応できるよう蔵書、施設、および人的支援の充実を図る。
- 安全で安心であるとともに、多様な学習スタイルに対応できるよう館内環境を整備する。
▶領域3 研究支援
- 卓越した研究および医療活動のために必要な資料を収集、保存し、最適な利用環境を提供する。
- 研究成果のオープン化を進めるために、塾内外の関係者との連携を強化し、研究成果の発信を支援する。
- 世界の研究動向や義塾の研究状況を把握し、関係部門に情報を提供する。また、研究活動にとって有効な最新の技術動向を調査、検証し、図書館サービスとして提供する。
メディアセンター中期計画2016-2020:最終評価報告
本報告はメディアセンター全体としての総論であり、各キャンパスメディアセンターでの個別の取り組みには一部を除いて触れていない。また今回の点検・評価の中で明らかになった今後に繋がる課題も記している。
概要
2016-2020年の5年間、以下の要因等により大学図書館を取り巻く環境は大きく変化し、メディアセンター中期計画も細かな変更を余儀なくされることもあったが、全体としてほぼ達成できたと評価している。
<外的要因>
・進化するモバイル技術によるデバイスやコミュニケーション手段の変容
・文部科学省の主導による大学教育の質の向上を目指す大学改革への取り組み
・学術情報流通のオープンアクセス(以下、OAとする)化、オープンサイエンスへのシフト
・クラウドやAIを用いる業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)への動き
・SDGsの機運の高まり
・新型コロナウイルス感染症の拡大
<塾内の要因>
・英語だけで学位取得が可能なプログラム(GIGA Program, PEARL)の開設などグローバル化の進展による留学生の急増
・「協生環境推進室」の設立によるバリアフリー、多様性や社会的包摂、SDGsへの取り組みの推進
・在宅勤務を可能にするための環境整備
・サイバーセキュリティ対策の強化
この5年間の中期計画の実践にかかわる最大の実績は2019年9月に早稲田大学と共同運用を開始した新図書館システムへの移行であり、図書館で取り扱う資料が電子にシフトするのに伴い至上命題であった紙と電子の両媒体を管理し提供できるシステムへの乗り換えを達成し、幅広い学術情報の一元的な検索を可能にした。このプロジェクトについて図書館関係者と情報共有するため、2020年2月に早稲田大学図書館と共同で公開シンポジウムを開催した。クラウドベースのシステムを選択したことでコスト削減も実現している。
次の実績としては電子ジャーナルパッケージ購読契約の維持が挙げられる。購読料の値上がりは止まらず予算面で厳しい状況は続くが、利用統計等を精査して塾内のコンセンサスを取りながら研究教育に欠かせないコンテンツを維持するよう予算確保に努め、同時に研究成果のOA化を推進する購読契約への転換も検討している。
また2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大で、図書館を含めた社会活動が大幅に制限されスタッフも在宅勤務となる中、図書・雑誌を扱う業務や来館しての閲覧などのサービスを停止せざるを得なかった。しかし、かねてより整備されてきたリモートアクセス環境の下、電子資料はスムーズに提供することができ、また資料郵送といった新たなサービスも行った。感染の収束は未だ不透明であり、利用者とスタッフの安全確保には引き続き重点的に取り組んでいるところである。
以下、項目ごとに報告する。
領域1 蔵書
領域1<主な実績>
- 学術情報流通の変化、利用動向を常に把握し、適切な媒体での資料収集に加え、既存蔵書 を評価し最適な蔵書構成、および資料配置を目指す。
それぞれのメディアセンターで利用者の資料探索行動に合わせた媒体での資料選定、書架づくりや蔵書配置を目指している。
電子ブックを購入してきた動きは2020年のコロナ禍で加速した。一方で、紙媒体資料の購入が大幅に減ることはなく、保存書庫を含め書庫狭隘化問題は続いており、教員の理解を得ながら除籍対象資料を選定するなど、蔵書評価・蔵書構築にも取り組んでいる。 - 研究および医療活動を支える環境の維持、発展を確保できるよう、電子資源契約を学内の合意を取りながら慎重に進める。
電子ジャーナルの価格高騰問題は塾内の教育研究における共通課題であるという認識の下、塾執行部および関連する事務組織とで会議体を新設し定期的な会合を持ち、大手版元の電子ジャーナル購読契約の維持・予算確保について検討を進めている。特に多数の部門で支払いを分担することが安定的な購読契約を困難にしているという意識を共有し、予算を組み替えメディアセンターに集約した。これにより執行額の掌握を容易にし、かつ支払い業務の簡素化を実現することができた。またメディアセンター内では、全体的な支出分担の調整による購入費の捻出や、JUSTICE(大学図書館コンソーシアム連合)と連携した版元との交渉、利用統計を参考にした購読コンテンツの評価・見直しを継続して行っている。電子ジャーナルパッケージ契約の解体にあたっては、利用者の金銭面での負担を最小限に抑えるためにILL費用の補助制度を開始した。 - 分担収集や共同保存について、塾内のみならず塾外機関との連携をも目指す。
2016年に山中資料センター2号棟が運用を開始し、1号棟と合わせて約140万冊規模の保存書庫を有することとなった。重複資料の除籍を進めつつ、1号棟を自然科学系の雑誌バックナンバー書庫、2号棟をそれ以外の資料庫として整備を進めている。
一方、塾外機関との連携は、2019年9月に早慶図書館共同運用システムがスタートしたことで両校の書誌データ統合が実現し、Shared Printに対応可能なシステム的基盤が整ったところである。 - 慶應義塾が所蔵する特色あるコレクションを発展、充実させ、公開を進める。
論語関連資料を数多く収集している三田メディアセンターは資料的価値が極めて高い「論語疏」を新たに収蔵し、貴重書展示会(2020年)で一般に公開した。塾内組織とのオンライン連携展を含め、この5年間で29回の塾内展示を行った。これ以外にも、所蔵する貴重な文化財の塾外展示会等への貸出依頼に応えるとともに、資料のデジタル化に力を注いでいる。IIIFに対応した「慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション」(2017年)、古医書コレクションである「富士川文庫デジタル連携プロジェクト」(2018年)の公開、およびNDLサーチとのメタデータ連携などを積極的に進めている。
また、より高い学習・教育効果を目指して貴重書活用授業をサポートしている。 - 慶應義塾の学術成果の機関リポジトリへの搭載を拡充し、情報発信を強化する。
慶應義塾大学機関リポジトリ(KOARA)を運用し、塾内学会誌、紀要を中心に学術成果や教育研究用資料を公開・発信している。加えて本学の研究者情報データベースとのデータ連携、搭載コンテンツへの国際的識別子(DOI)の付与など、ビジビリティの向上を進めながら搭載件数を増やしている。
領域1<課題>
- 書庫問題
塾内で分担収集と共同保存を進める余地はまだ残されているが、山中資料センターの収容力は限界が近く、最適な蔵書構築のためには、電子と紙のバランスも考慮しながら、慎重な除籍も並行して行う必要がある。一方で、10年先を見越した根本的解決策として3号棟建設に動き出す時期に来ている。早慶間でのShared Printや電子資料の共同契約に向けては、現状分析と今後の可能性について検討を開始する。 - 電子ジャーナル購読継続とOAへの対応
義塾の研究環境を維持、向上させるために、JUSTICEや関連部署と一層連携を深める中で予算捻出の努力を継続しなければならない。転換契約の拡大を見据えて、論文のOA化への取り組みについて情報収集し、塾内での情報共有を強化する。 - 電子資料を含めた選書方針の策定
各キャンパスの学問分野や研究動向に沿った蔵書構築は重要である。電子資源については、紙媒体資料とのバランスを考慮した選定の基準を、メディアセンターごとの選書方針に盛り込んでいくことが望ましい。
領域2 教育支援
領域2<主な実績>
- 自ら考え、課題を解決する力を養う学習や教育を支援するための資料を収集、保存し、最適な利用環境を提供する。
各メディアセンターで、洋書、教科書、リザーブブック、新書・文庫、軽読書などのコーナーを設け学生の利用ニーズに合わせた資料配置に工夫を凝らしている。電子資料は、特にコロナ禍においては、2016年から導入した試読型電子ブックパッケージにより国内外の電子ブックを積極的に購入し、既に定着していたリモートアクセスサービスを基盤に遅滞なく必要な資料を提供してオンライン授業で活用された。
2019年9月からは蔵書検索システムKOSMOSに新たなディスカバリーシステムを搭載し、蔵書、契約コンテンツに加え幅広い学術情報の検索をワンストップで可能にしている。 - 多種多様な資料から効率的かつ効果的に情報を検索し、適切に活用できる知識や技術を獲得できるよう人的支援を強化する。
学生が質の高い情報リテラシーや資料検索法を身に付けられるよう、各種セミナーを企画・実施している。教員からのリクエストを取り入れ、図書館員の知識、データベース版元の協力を組み合わせて効果を高めるべく力を入れている。また、メディアセンターを活動の場として、先輩学生や院生が後輩の学習や論文・レポート執筆などの相談に乗る取り組みも定着している。
これらの人的支援策もコロナ禍によりオンライン化を迫られ、ライブまたはオンデマンドによるセミナー実施や利用案内・ガイドの電子化が一気に進んだ。また、SNSや遠隔会議システムによる個別相談の試みも開始した。2020年には「オンライン授業~いま、図書館ができることを考える~」をテーマにスタッフ向けの研修会を開催した。 - 留学生、生涯学習者、障がいのある学生など学習者の多様性に配慮し、変化する教育内容や教育方法にも対応できるよう蔵書、施設、および人的支援の充実を図る。
義塾が進める留学生受入拡大の方針や英語だけで学位が取得できるプログラム履修生の増加に即して、各種案内の日英併記、洋書および日本語学習用資料の整備、英語によるガイダンスなどを実施してきた。2018年には利用者の多様性をテーマに、スタッフ向け研修会「ダイバーシティを意識する」を開催した。乳幼児を連れた方の受け入れ体制を整えつつあり、ハンディキャップのある方への支援においては個々の事例に即して対応している。 - 安全で安心であるとともに、多様な学習スタイルに対応できるよう館内環境を整備する。
静謐な閲覧席と多目的に利用できるエリアのゾーニング、椅子・照明など調度類の刷新、床のフリーアクセス化と電源の確保など、より快適な学習空間の創出を目指して館内施設を整備している。また、防犯カメラの設置、スタッフによる館内巡回の強化、防災訓練の実施等により、安全で安心して滞在できる場所の提供に努めている。2017年には「学習・研究を支える図書館空間をデザインする」をテーマにスタッフ向けの研修会を開催した。
新型コロナウイルス感染症対策では、閲覧席の削減、館内滞在時間の制限、必要箇所へのアクリル板設置や職員による消毒に加えて、利用者自らが対策を講じられるよう、館内混雑状況の表示や手指消毒液の設置など、大学とキャンパスの方針の下で可能な措置をとっている。
領域2<課題>
- ポストコロナに求められる図書館サービスの構築
SDGs達成を意識しながら、オンライン環境下での業務の再構築や新たなサービスの提供により、過去にとらわれない形での教育支援を目指す。 - 安心・安全な利用環境の整備
ポストコロナの学習スタイルの変化に柔軟に適合し、すべての来館者が安心して滞在できる環境を引き続き整備していく。 - LMS(Learning Management System)と図書館システムの連携
義塾が新たに導入したLMSと図書館システムを連携させ、新しい授業支援の形を作る。 - グローバル人材の育成
英語カリキュラムに対応できるようスタッフ個々人が英語能力を高めるとともに、図書館員としてのスキルを磨くための研修やOJTを企画していく。
領域3 研究支援
領域3<主な実績>
- 卓越した研究および医療活動のために必要な資料を収集、保存し、最適な利用環境を提供する。
2019年9月に蔵書検索システムKOSMOSへ新たなディスカバリーシステムを搭載し、冊子体も電子資料も区別せず幅広い学術情報の一元的な検索を可能にしている。さらにGoogle Scholar からも契約コンテンツのフルテキストが見られる環境を整備し、電子ジャーナルリストを提供するなど、研究者の行動に合わせた学術情報へのアクセスを実現している。慶應義塾共通認証システム(keio.jp)によるリモートアクセスサービスは、コロナ禍においても遅滞なく必要な電子資料を提供し研究を支援した。また、利用が見込まれる電子ジャーナルのアーカイブファイルを購入している。 - 研究成果のオープン化を進めるために、塾内外の関係者との連携を強化し、研究成果の発信を支援する。
塾内の研究者に対して電子ジャーナルのパッケージ契約に付随するAPC(論文掲載料)割引情報を提供してきたが、2020年には複数の版元についてRead & Publish契約モデルを採用し、学術研究支援部と連携した塾内広報を展開してAPC免除による論文のOA化をさらに具現化した。 - 世界の研究動向や義塾の研究状況を把握し、関係部門に情報を提供する。また、研究活動にとって有効な最新の技術動向を調査、検証し、図書館サービスとして提供する。
塾内他部署からの依頼を受け、研究者の研究業績調査に協力している。研究者に対してはOA論文検索ツールや文献管理ツールを紹介するセミナー等を実施し、また、国内外の図書館コミュニティから得られる研究関連情報を研究支援部門と共有している。2019年には「オープンアクセス(OA)推進に向けて」をテーマにスタッフ向けの研修会を開催した。
領域3<課題>
- 電子ジャーナル購読維持とOA推進に関わるコストの把握
高騰を続ける電子ジャーナル購読費の確保にはメディアセンターの予算面での自助努力に加えて、塾内での問題意識共有と協力体制の確立が不可欠である。大学が支払っているAPC額を把握し、購読とOA出版の経費バランスの取れた財源確保を図らねばならない。 - 義塾の研究データ管理(RDM)の枠組み構築への関与
義塾ではRDMに関する取組方針の検討が開始されており、メディアセンターが果たす役割を考える時期に来ている。 - 研究支援に関わる人材の育成
専門的な主題分野を持たないスタッフによる研究支援には限界があるが、メディアセンターとして提供できる支援を拡充するため、資質・能力・キャリアパスの可視化による人材育成を行う。